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東京高等裁判所 平成6年(行コ)227号 判決 1995年11月30日

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

控訴人

右代表者法務大臣

宮澤弘

右指定代理人

伊藤一夫

張替昭吉

大西信之

木村晃英

静岡県富士市吉原四丁目五番一六号

被控訴人

杉山和代

(旧姓市川)

右訴訟代理人弁護士

藤森克美

右当事者間の租税債務不存在確認請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

控訴棄却。

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決四頁六行目の「離婚係争中の夫」及び七頁九行目の「離婚係争中の夫である」をいずれも「離婚前の夫であった」と改め、同頁一行目の「修正申告」の前に「本件」を加え、同八頁末行の「本件訴訟記録」を「原審及び当審訴訟記録」と改める。)から、これを引用する。

理由

一  争点に対する判断の前提として、次のように付加、訂正するほかは、原判決九頁二行目から二五頁四行目までの記載を引用する。

1  原判決一四頁一行目の「及び乙第七号証」を「、乙第七号証、第一九号証中の本文(一枚目から六枚目まで)、第二二号証中の本文(一枚目から六枚目まで)及び第二三ないし第二五号証」と、同三行目から四行目にかけての「及び乙第一四号証」を「、第二四号証の三、四、第二六号証、乙第一四号証、第一七号証、第二〇号証の一、二、第二一号証の二ないし五及び第二九号証」と改め、同六行目の「甲第一四号証、」の次に「第二四号証の一、第二五号証、乙第一六号証の一、第一八号証及び第三一号証、乙第一九号証及び第二二号証の各本文並びに弁論の全趣旨によって原本の存在及び成立を認める乙第一九号証及び第二二号証中の各別紙部分、」を加える。

2  原判決一五頁八行目の「言い渡された」から同九行目までを「言い渡され、その後被控訴人と康夫は離婚し、被控訴人の氏は婚姻前の氏である杉山に復した。」と改める。

3  原判決一九頁六行目の「登美子」から同七行目までを「登美子が処理していた。康夫は大仙の営業自体には全く関与せず、大仙は実際上被控訴人の責任において営業していたが、被控訴人が経理等の事務に疎かったため、大仙の経理事務の処理は登美子に任せて行わせていた。」と改める。

4  原判決二〇頁一行目の「管理していた」の次に「が、登美子は被控訴人から渡された領収証や伝票、メモに基づき売掛帳の記載をするのみで、それ以外の元帳や金銭出納帳等は作成しておらず、その一方、被控訴人は大仙の売上げのうち相当額の現金を正確な伝票を作成しないまま自己が保有したままとすることなどがあったため、大仙の事業関係の経理については必ずしも実体を正確に反映した処理がされていなかった」を、同五行目の「承知していた」の次に「が、これは、クレジット会社において被控訴人を取引先としたのでは信用が乏しいと考え、中央紙業ないし同社社長市川康夫の取引名義にしないと加盟店契約を締結しようとしなかったためであった」を、同七行目の「取引先」の次に「であるアメンド・ライセンス株式会社」を、同一〇行目から末行にかけての「記載している」の次に「が、これも、被控訴人ないし「ブティック大仙」を取引先とすると信用不足によって掛売りをしてもらうことができなかったため、取引先として「株式会社大仙」という架空の名称を使用した上、その代表者を康夫とし、その仕入担当者を被控訴人とする取引誓約書を作成して、康夫の信用を利用したものであった」を加える。

5  原判決二一頁一行目から六行目までを次のとおり改める。

「また、昭和五六年六月に同年一月から同年六月までの六か月分の給与(ただし、暫定)として六〇万円が被控訴人に対して支払われた旨の給料支払明細書(甲第三号証)が作成されているが、右明細書は被控訴人の要求によって康夫がいわばメモ的に作成して被控訴人に交付したものであり、昭和五六年六月当時、康夫が被控訴人に対して大仙の給与として六〇万円を交付したという事実はなく、その後毎月被控訴人に対して一〇万円の給与を支払っていたという事実もない。被控訴人は大仙の売上金や顧客から直接回収した売掛金から適宜の金額を自己に留保して大仙の運用資金に充て、又は自己のため使用するなどし、残余の現金を登美子に預け、登美子はこの現金を被控訴人を介しないで回収された大仙の売掛金とともに康夫名義の銀行口座に預金していた。

そして、登美子は、昭和五五年分から昭和五七年分までの大仙の営業に係る所得税につき、被控訴人から一任されて、税理士保科嘉一に依頼して被控訴人名義の確定申告書を作成し、法定申告納期限内に所轄の富士税務署長あてに提出し、また、被控訴人名義の昭和五六年分以降の所得税についての青色申告承認申請書を作成して昭和五六年三月一六日に同署長あてに提出した。」

6  原判決二一頁七行目の「康夫」の次に「及び被控訴人」を加え、同一〇行目の「みずから」から二二頁二行目までを「康夫が有限会社大仙の取締役に就任した。被控訴人は右会社の取締役にはならなかったが、その後も営業の実際の形態は個人営業の時代と格別代わらなかった。」と改める。

7  原判決二三頁一行目の「大仙」の前に「被控訴人名義で所得税の申告がされていた」を加える。

8  原判決二五頁四行目の末尾に「しかし、登美子は被控訴人に対して、右税務調査があることについても、右調査が実施されたことについてもその都度報告しており、これに対し、被控訴人は税務署員の事情聴取についての対応をすべて登美子に任せていたものである。」を加える。

二  右認定に関して、被控訴人は、以前から登美子を全く信頼しておらず、登美子に対して税務申告を任せたという事実はなく、登美子が前記被控訴人名義による確定申告及び本件修正申告をしていたことについてその当時全く知らなかった旨主張し、原審における被控訴人本人の供述及び甲第八、第一八号証中には右主張に沿う部分があるが、その余の前掲各証拠に照らして右被控訴人の供述等は到底採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  右認定事実によれば、被控訴人は登美子に対して本件修正申告をすることについての代理権を授与していたものというべきである。

よって、本件修正申告は適法になされたものというべきであり、本件修正申告に係る所得税の納税義務者が被控訴人であることは明らかであるから、本件修正申告に係る租税債務が存在しないことの確認を求める被控訴人の本訴請求は理由がない。

四  以上の次第で、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから原判決を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊地信男 裁判官 村田長生 裁判官 伊藤剛)

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